警察が「侵入の手口」を泥棒に聞きました。
火事や台風、地震などといった災害への備えとともに、日頃からきちんと対策を講じておきたいのが防犯。防犯対策専門家の京師美佳さんに、泥棒(窃盗犯)の手口や狙われやすい場所、侵入を防ぐための対策などについてうかがいました
窃盗犯のドア解錠手口には5年ごとに「流行」が!?
「窓ガラス」とともに、窃盗犯の侵入経路として多いのが「玄関ドア」や「勝手口」です。そして、その手口には「流行」が見られるとか。
「かつて、“ピッキング”と呼ばれる犯罪の被害が広がって問題になったことがあります。耳かきのような形状の特殊器具をカギ穴に突っ込んで解錠してしまうもので、ディスクシリンダーと呼ばれるタイプの部品を用いたカギがその標的にされました。しかし、その防犯対策が進むと2000年頃をピークに急減し、それから5年が過ぎた頃から台頭してきたのが“サムターン回し”と呼ばれる手口です」5年ごとに犯行の手口が変わる傾向があるので、鍵もそのサイクルで新しくしたほうが安心だと京師さんはアドバイスする。
サムターンはドアの室内側についている金具で、親指(サム)と人差し指でツマミを挟んで回す(ターンさせる)とカギを開閉できます。“サムターン回し”とは、ドアにドリルなどを用いて開けた穴や、ドアスコープ、郵便受けなどから工具を差し込み、ツマミを回して解錠するという犯行です。「サムターンガードなどの防犯グッズが出回るようになってこちらも下火になったのですが、代わって横行するようになったのは“バンピング”です。
バンプキーと呼ばれる特殊なカギをシリンダーに差し込み、ちょっとした操作を行うだけで解錠できるという手口で“ピッキング”は傷がつき判明しますが、“バンピング”は傷跡がほとんど残らず戸締り忘れとされることが多くあります。同じ種類のシリンダーが用いられていれば1つのバンプキーで開けられるので、1棟のマンション内で多数の家庭が被害に遭うケースも出ています」
皮肉なことに、“ピッキング”の被害が相次いだディスクシリンダーには“バンピング”が通用しないとか。一方で、“ピッキング”に強いディンプルキータイプのシリンダーは、“バンピング”に弱いそうです。
「5年も経てば新たな犯行の手口が広がりますから、理想を言えば、カギもそのサイクルで新しくしたほうが安心でしょう。単にカギの交換業者さんに『最新のカギに交換してください』と伝えるのではなく、『バンピング対策が施されているカギをください』とリクエストすることが大切です。また、カギ穴のない電子錠に交換してしまうという手もあります。出始めの頃と比べれば価格も下がってきていますし、どんな手口が流行っても無関係なので、5年ごとに交換するケースよりも割安になる可能性もあります」
玄関や勝手口からの侵入を防ぐ基本は「1ドア・2ロック」
エントランスがオートロックとなっている集合住宅で高層階に住んでいる人の場合、「窃盗犯は侵入できない」と思いがちです。しかし、住民がオートロックを解除した背後から続いて通過する“とも連れ”が横行しているのが事実で、「玄関ドアが最後の砦となるだけに、きちんと対策を講じておくのが無難」と京師さんはアドバイスします。
「防犯対策の基本は、補助錠をつけて『1ドア・2ロック』にすることです。そうすれば、おのずと侵入に要する時間が長くなり、窃盗犯が諦めやすくなります。また、わずかな隙間にバールを無理矢理に差し込む“こじ破り”という荒っぽい手口もあるので、鎌(フック)付きデッドボルト(カンヌキ)になっているカギに交換することも検討しましょう」
通常のデッドボルトだと、テコの原理を用いてバールでこじ開けられてしまう恐れがあるわけです。鎌が付いていればその部分が引っかかり、こじ開けるのが困難になります。
LIXILの「リシェント玄関ドア」は2ロックを標準装備しているうえ、シリンダー自体が不正解錠をしづらい構造になっています。しかも、3つの鎌付デッドボルトを採用しているので、“こじ破り”に対する抵抗力も非常に高くなっています。「賃貸住宅にお住まいの人も、退出する際に必ず原状回復を行うことと自費負担を前提条件として、物件のオーナーにカギの交換を交渉してみるのも手でしょう。ドアに新たな穴を開けたりしなくても設置できるカギも出回っています」
ここまでガラス窓とドアの防犯対策について考えてきましたが、実はどちらにおいても、注意すべきは「音」「光」「時間」「人の目」の4原則だと京師さんは説きます。「音」と「光」は、防犯アラームやセンサーライトなどで犯人を威嚇することを指します。最優先すべきは窓やドアの防犯対策ですが、資金的に余裕があるなら、これらのグッズもそろえるとよいでしょう。
「人の目」については、京師さんは「非常に重要なポイント」と語ります。警察が窃盗犯からヒアリングした調査でも、犯行を諦める一番の理由として、『近所の人に声をかけられたり、ジロジロ見られたりすること』が挙げられています。特に戸建ての場合は、日頃から近所付き合いを疎かにしないように心掛けて、自分が留守の際に不審者を見張ってもらえる関係を築いておきたいところです。玄関付近を綺麗な花で飾ったり、冬にはイルミネーションを点灯させたりして、行き交う人の視線が向けられやすい環境を整えておくのも効果的です」